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# となりのあの人

となりのあの人─ライフステージ別資産づくりについて考えるショートストーリー 第1話 三条萌花編

三条家の三姉妹、すみれ(38歳)、茉莉(まり)(35歳)、萌花(もえか)(26歳)が、ある出来事をきっかけに、将来のライフプランや、お金との付き合い方を考えるショートストーリー。第1話は、末っ子の萌花が、同僚から“ライフイベント表とお金の色分け”を学んでいきます。

あらすじ


三条家の三姉妹、すみれ・茉莉(まり)・萌花(もえか)の父が家で転倒して骨折した。

年々老いていく両親を見て、今後の人生を真剣に考えるようになった3人。

末っ子の萌花は、両親が元気なうちに花嫁姿を見せたい!と、結婚を前提に付き合う佑馬に相談する。

いい返事を期待していたのに、予想に反して思案顔の佑馬。彼はこの機会に萌花の浪費癖を直そうと、お互いに結婚式や将来に向けた資金を貯めようと提案する。

これまでマネープランなど考えたこともなく、毎月給料を使い切っている萌花は困ってしまう。そのとき同僚千夏の生活ぶりを、ふと思い出した。



登場人物プロフィール


●三条萌花(さんじょう・もえか/三条家の三女/百貨店販売促進企画部勤務/26歳)

阿佐ヶ谷の実家で両親と暮らす。親の言うことを聞いてのんびりと育った世間知らずな末っ子。

私立の女子大を卒業後、洋服や可愛い雑貨が好きで、新宿にある百貨店に入社。婦人服フロアで販売を経験後、現在は販売促進企画部(婦人服チーム)に所属。

与えられた仕事は的確にこなすが、自分の意見や主張がなく、まして自ら企画を出すことは苦手。年収350万円。

貯金額はほぼゼロ円。実家には毎月3万円を生活費として入れているが、残りは洋服代や友人との交際費などで毎月使い切ってしまう。

彼氏は人形町の老舗料亭の跡取り息子・佑馬(ゆうま)。



●千夏(ちなつ/萌花の同僚/26歳)

練馬区光が丘でひとり暮らし。堅実で負けず嫌い。地元の県立高校から大学進学を機に上京。

萌花と同じ販売促進企画部(婦人服チーム)に所属。斬新な企画と行動力で、ヒットする売り場作りに貢献する若手。

給料は萌花とほぼ同額。毎月5万円を預金し、1万円は投資にまわす。趣味は美術館めぐり。



●佑馬(ゆうま/萌花の彼氏/老舗料亭の跡取り息子/32歳)

人形町にある老舗料亭の長男。花板(はないた、板長)兼・店主の父の元で板前修業中。

将来は、父親と同様に、一流の板前として、優れた経営者として料亭を盛り立てていこうと、大学では経営学を専攻したしっかり者。








父が階段から落ちたと動揺した母から連絡をもらったとき、私はまだ職場にいた。

病院に駆け付けると、心配顔の母の横で足を固定したまま横たわっている父。でも案外元気そうであった。

「二階から降りようとしたら、足を滑らせちゃってさ。心配かけて悪かったな」

そう父は恥ずかしそうに頭を掻いていたが、 足のすねを骨折して手術が必要、年齢を考えれば術後のリハビリも長引くかもしれないと、医者から言われたそうだ。

「もう、気を付けてよー」

母の前でわざと明るい声を出し、少しでも不安を和らげようとした。

「呼び出してごめんね」

落ち着いてきた母から、これから姉二人も来ると聞き、私は職場に戻ることにした。

病室を出るときに振り返り、もう一度父と母を見た。

二人とも一回り身体が小さくなったように見える。

なんでいままで気が付かなかったんだろう。

父は70歳、母は65歳。当たり前だけど、両親は日々老いているのだ。




「...だからね、早めに式を挙げたほうがいいと思うの!」

次の日、結婚を前提として付き合っている佑馬をカフェに呼び出し、父のことを話した。

いま私は26歳。結婚は30歳ぐらいでいいと考えていたが、両親が元気なうちに早く花嫁姿を見せたいと佑馬に相談したのだ。




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「ねぇ、聞いてる?」

ずっと黙っていた彼がやっと口を開いた。

「これを機に、萌花と一緒に結婚式の費用を貯めるプランを考えていきたいんだ」

「どういうこと?」

「萌花は、毎月給料全部使っちゃうだろ? 料亭の女将になるなら、それじゃ困るからさ」

32歳の佑馬は、人形町にある老舗料亭の跡取り息子だ。

経営面でも料亭を盛り立てようと大学では経営学を専攻していた。

卒業後に料理の修行を始めたので板前としては遅いスタートになるが、将来を見据えてのことだ。

私はこんな風に彼のしっかりしているところに惹かれ、交際を始めたのだった。

「経営面でも、萌花には片腕になってほしい。金銭的にしっかりしてほしいんだ」

「け、結婚したら、変わると思うよ」

「......いまお金はどのくらい貯めてあるの?」

「......0円......」

「結婚式の費用は、親から出してもらうつもり? 親孝行したいのに、それじゃ本末転倒だよ」

正論すぎて、ぐうの音もでなかった。




女子大を卒業後、百貨店に入社した。

勤続4年目で年収およそ350万円、手取り額は月約20万円。姉二人は結婚して家を出ているが、私はまだ阿佐ヶ谷の実家で暮らしている。

生活費として毎月3万円を親に渡していたが、残りは洋服代と美容代、友達との交際費で全額消えていた。かなり親に甘えていたと思う。

一か月の収支のやりくりもしたことがないのに、結婚式の費用を貯めるなんて、できるのだろうか――。

途方に暮れながら歩いていると、同僚の千夏が頭に浮かんだ。同じ給料のはずなのに、一人暮らしの彼女はどうやりくりをしているのだろう。




「千夏さん、ニューヨークに行くんですか!」

オフィスに甲高い声が響き渡る。出社すると千夏が事務のアルバイトのスタッフと談笑していた。

夏休みに、MoMAニューヨーク近代美術館にいくらしい。

千夏は練馬区の光が丘で一人暮らしをしている。東京23区内で一人暮らしをしているのなら、私よりもはるかに多くの生活費がかかっているはずだ。

ニューヨークに行く余裕があるなんて、信じられない。




モヤモヤするぐらいなら、直接本人に聞けばいいのだが、実は私は彼女のことが苦手であった。

3年前、同じ販売促進企画部の婦人服チームに配属された当初の千夏は、早く出世したいといったガツガツ感と、人を寄せ付けない冷たさがあった。

企画力と行動力があり、去年のバレンタインイベントでは食品チームを巻き込み、特設会場に『バレンタイン勝負服』『バレンタイン女子会服』の売り場を設置。

SNSで大々的に宣伝したこの企画は大ヒットとなった。のんびりしている私は、とても彼女のペースについていけなかったのだ。




千夏を見ると、今日も仕立てのいい紺色のパンツスーツを着こなして、水色のスカーフも、いいアクセントになっていた。千夏は変わった。

前は誰とも世間話なんかしなかったのに、いまはアルバイトのスタッフと笑顔で会話している。いまの千夏になら聞けるかもしれない――。



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「かなりやりくりして生活してるのよ」

そう笑いながら話している千夏と、職場近くのカフェにいる。思い切って仕事帰りに誘ってみたら、OKしてくれたのだ。

「家賃は住宅手当の2万を使ってるし、格安スマホにして通信費を抑えたり、なるべく自炊したり。このスーツだって古着だよ」

千夏の言葉に、とてもびっくりした。千夏はいろいろ工夫して生活をしていたのだ。

そう言われれば、手作りのお弁当をよく持参しているみたいだし、実は持っている洋服の数も少ないと言う。

スカーフなどの小物でアレンジして、同じ服を着ているように感じさせない工夫をしていたのだ。

フリマアプリやネットオークションなども、利用しているそうだ。彼女の生活ぶりを耳にし、私のこれまでの無駄使いを改めて深く反省した。



「なんで私の一か月の生活費なんて知りたかったの?」

私は抱えている悩みを相談した。

「それなら、これからお金がどれだけ必要か、表を作ってみれば分かりやすいよ」

「表?」

「そう。今後の人生をイメージして、一年後には結婚、その二年後には子供を出産したいとか。時期と内容、そのために必要なお金をざっくり書いてみるの」

「ああ~、なるほど!」

ライフイベント表っていうの。例えば、10年後にマイホームを持つためにはいくら必要っていうのが見えてくると、これからの人生プランも立てやすくなるんじゃないかな」

「でも、必要な金額が分かっても、貯めるのが大変なんだよねぇ......」

お金の計画性がまるでない私は、手元にあればあるだけ使っちゃうと思う。




「じゃあ、お金の色分けをしてみたら? お給料が入ったら、まず3つに分けるの」

千夏の話によると、お金を使う時期ごとに分類する方法があるらしい。

生活費などすぐに必要になるお金は『生活資金』、結婚式の費用のように使い道が決まっているお金は『予定あり資金』、そして、まだ使い道の決まっていないお金は『余裕資金』。

こんな風に3種類に分けてみる方法だった。

「生活資金はいつでも引き出せるように、銀行の普通預金口座に入れておけばいいし、予定あり資金なら定期預金口座に預けるのも一つの方法だよね」

「私も無駄を省いて生活すれば、出来そうな気がしてきた。一日も早く節約を始めないと」


「慌てなくても大丈夫。まずは萌花自身のライフイベント表を書いて、お金の色分けをしっかりしてみてね。毎月のお金の使い道を書き出して、無駄遣いを把握するのも手かな」




帰宅後、ライフイベント表を作ってみた。

二年後の28歳の時には結婚式を挙げたい。結婚式費用と新婚旅行代もいれて500万円、30歳で出産を考えて50万円が必要と、ざっくりであったが、表をうめていった。

これからの人生は佑馬と二人で歩んでいく。これらのお金も二人で貯めていく・・・。そう考えたら安心してきた。

このライフイベント表を佑馬にも見せよう。

二人でお金の色分けを考えれば、早く貯まるかもしれない。千夏が慌てなくても大丈夫といった理由が、なんとなく分かった気がした。




「新婚旅行代も入れて500万円か。これぐらいは必要かもなぁ」

とりあえず佑馬と結婚式費用は6:4で支払おうと決めた。

私が準備する金額は200万円。結婚式を二年後に設定すると、毎月約9万円を『予定あり資金』として預金する計算になる。

佑馬は「萌花が、お金を貯められるとは思えない」となんども言っていたが、私はやる気に満ちていた。

全ての洋服と小物類をチェックしてみたら、当分買う必要がないほどあるし、お弁当を持参すればランチ代も浮く。なによりも一日も早く、両親に花嫁姿を見せて安心させたかった。




10日後。

お弁当を毎日持っていくようになり、昼休みは千夏と過ごす日が多くなった。

「節約ライフ、そろそろ疲れてきたんじゃない?」

「なんで分かるの⁉」

「私もそうだったから。前の私、ピリピリしてたでしょ?」

親からの仕送りもなくなり、全て自分の給料だけでやりくりしなくてはいけなくなった。

節約疲れとプレッシャーを感じて焦っていたと打ち明けてくれた。

「そのプレッシャー、分かるなぁ」




結婚式の費用が貯まっても、結婚後もいろいろとお金が必要になってくる。

その資金も貯めなくてはいけないと考えるだけで、憂鬱な気分になってしまう。

「将来的に必要となるお金は、長期的な目線で"投資"して運用する方法もあるよ」

「投資⁉」

「そう。実はわたし、投資信託はじめてみたの。

将来のお金のこと、漠然と不安だったんだけど、最近は、人生プランを考えながら少しずつ準備を始められてるなって実感するの」

ああ、千夏は夢に向かって着実に一歩ずつ前に進んでる。だからこんなに笑顔がふえたんだ。

投資と聞くと勉強する必要があるとか、まとまったお金がないと始められないというイメージだったが、

投資信託の場合プロにお任せできるし、少額からでも始められるらしいと聞いて、興味がわいてきた。

「少し不安だけど、私もやってみようかな」

「心配しなくても大丈夫! 少しずつ教えるから。

ただし、投資信託は買ったときより値上がりすることもあれば、下がることもあるから。それだけは忘れないでね」




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― 二年後 ―



今日は私と佑馬の結婚式。

披露宴会場で佑馬と二人、私の両親の前にいる。

やっと親孝行ができた気がして、今日は朝から涙が止まらない。結婚式に向けた費用の準備も佑馬と二人でだから頑張れた。

そして、なによりも千夏のアドバイスのおかげだと本当に感謝している。




司会者が両親への花束の贈呈を促してきた。父の前に立った佑馬の顔は、緊張気味だ。

「娘をよろしく頼むぞ」

「必ず幸せにします!」

花束を渡し、深々とお辞儀をする彼を見ていたら、さらに涙が出てきてしまった。

千夏から"ライフイベント表とお金の色分け"を教わったおかげで、お金の流れを知る大切さが分かった。

この調子で結婚生活も頑張っていこう――。

私は出席してくれた千夏に向けて、笑顔で手を振った。








いかがでしたでしょうか?

萌花が実践した「ライフイベント表づくりとお金の色分け」は、お⾦のキホン①をご覧ください。




お金のキホン①:https://funds-i.jp/column/money-01.html

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