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となりのあの人─ライフステージ別資産づくりについて考えるショートストーリー 第3話 今西すみれ編

三条家の三姉妹、すみれ(38歳)、茉莉(まり)(35歳)、萌花(もえか)(26歳)が、ある出来事をきっかけに、将来のライフプランや、お金との付き合い方を考えるショートストーリー。第3話は、長女のすみれが、友人から“リタイア後のためのマネープラン”を学んでいきます。

あらすじ


三条家の三姉妹、すみれ・茉莉(まり)・萌花(もえか)の父が家で転倒して骨折した。

年々老いていく両親を見て、今後の人生を真剣に考えるようになった3人。

長女のすみれは、IT関連のエンジニアである夫と二人暮らし。

平日は節約しつつ、休日は夫と旅行を楽しむなど、メリハリのある生活を送っていた。

ある日、母・和枝から父のリハビリが長引きそうだと聞いた。

幸い、リハビリ費用に関しては心配いらないようだが、父の入院を機に、すみれは自分たちのリタイア後のお金について心配になった。

そんな中、行きつけの小料理屋の女将・香織からランチに誘われる。



登場人物プロフィール


●今西すみれ(いまにし・すみれ/三条家の長女/大手製薬会社・一般事務(派遣)/38歳)

ITエンジニアの夫・春雄と、上石神井(東京・練馬区)の2LDK中古分譲マンションに住んでいる。

夫とは、前職のシステム開発会社で知り合い結婚した。家族思いで情が厚い頑張り屋だが心配性な面もある。

現在は大手製薬会社で一般事務派遣スタッフとして働く。

年収は約300万円。週末は、珍しい日本酒を取り扱う地元の小料理屋「ほの香」で、夫・春雄とよく食事をする。



●香織(かおり/すみれの友人/「ほの香」の女将/42歳)

上石神井で小料理屋「ほの香」を営む。夫と娘との三人暮らし。

日本酒ソムリエの資格を持つ。全国の酒蔵へ直接交渉に行って取り揃えた日本酒と、それによく合うおばんざいをリーズナブルに提供する。

面倒見のいい姉御肌で、すみれがあこがれている人生の先輩でもある。



●和枝(かずえ/すみれの母/専業主婦/65歳)

おっとりとした性格。子供たちと孫に優しい母親。孫をとても可愛がっている「ばぁば(愛称)」。

大学卒業後、すぐに夫と結婚。外で働いた経験がなく専業主婦としてしっかり家を守ってきた。



●今西春雄(いまにし・はるお/すみれの夫/フリーのITエンジニア/43歳)

「常駐型」フリーランスのエンジニア。案件ごとに企業と契約し、出社して働く。

趣味は旅行とカメラとお菓子作り。妻・すみれと夫婦二人で過ごす時間を大切にしている。








病院からの帰り道。

電車に揺られながら、母の言葉を思い返している。妹の茉莉が帰ったあと、病院のロビーで母と話をしたのだ。

「お父さんのリハビリ、思ったより時間がかかりそうなの。これからのことを考えると、ちょっと不安でね......」

疲れ果てた様子の母がため息をついた。

「......大丈夫よ!お母さん。病院にはできるだけ顔を出すし、お金ならちゃんと援助するから、心配しないで」

そう言ったが、母はお金のことはいまのところ心配しなくてよいと言った。

母から、実家の家計のやりくりを聞くと、無理に節約しなくても生活できているようだった。

一か月の年金が約24万円。一緒に住む末っ子の萌花が、月3万円を生活費として渡しており、合計27万円。これで何とか毎月やりくりしているらしい。

父の退職金も残っていて、予期せぬ出費や旅行などのイベント時に必要なお金は、これを取り崩しているらしく、資金的な援助は今のところ必要ないようだ。




そう母から聞いてホッとした。

一方で、自分たちのリタイア後の生活資金については十分だろうか、とふと考えてしまった。

自宅のある上石神井駅についた。ホームに降り立った私は、夫・春雄に電話をかけた。




「『ほの香』で待ってるわね」

「うん、わかった」

「ほの香」とは、地元にあるいきつけの小料理屋だ。




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女将の香織さんは日本酒ソムリエの資格を持っていて、多種多様な日本酒を取り揃えている。そして、それぞれのお酒に合うおばんざいを提供している。

おいしいお酒とおつまみを居心地のいい雰囲気のなかで味わえるところが気に入って、夫婦で毎週末のように足を運んでいる。

いま、その「ほの香」のカウンター席の隅っこに二人で座り、父の容態を話し、今後のことを相談しているのだ。

今日両親の様子を見て、自分たちのリタイア後の生活資金が急に身近でリアルな問題に感じられた。

春雄はフリーランスでITエンジニアとして働いている。加入している年金は国民年金のみ。

リタイア後に向けて、いくら用意する必要があるのかも正直よくわからない。

ただ、とりあえずいまのうちに預貯金を少しでも増やしたほうがいいのではと考えはじめていた。

「実は、いまの派遣先の会社で、正社員試験にチャレンジしようかなって考えているの」

「本当に?無理しなくてもいいんじゃないか」

春雄が心配するには訳があった。

私は情報処理専門学校卒業後、システム開発会社にエンジニアとして就職したが、身体を壊して退職。もとの調子に戻るまで1年以上かかった。

その後、結婚を経て、現在は製薬会社で派遣社員として、残業なしのフルタイムで働いている。

学生時代に描いた姿とは異なるが、私なりにいまの仕事にやりがいを感じている。

「正社員になれるかどうかまだ分からないけど、こんなに元気になったし、もっとチャレンジしてみたいの」

「そういうことなら応援するよ。思いきりやってみなよ」

「ありがとう。頑張ってみるね!」




二週間後。

春雄は忙しいらしく、今日は休日出勤だ。

私は正社員試験の勉強をしていたが、いまは気分転換にキッチンでカップケーキを作っている。




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焼き上がるまでの時間、ソファーに座り、この前計算した我が家の出費額を思い浮かべていた。

春雄の収入は、常駐先の企業との契約により変動する。現在の手取り額は、月約45万円。私の現在の手取り額は月約22万円である。

私たち夫婦の共通の趣味は、旅行とカメラ。毎月のように国内を旅行し、年に一回は海外旅行にも出かけて風景写真を撮っていた。

平均すると、その旅行代は二人で1回約6万円。格安ツアーも積極的に利用していたが、年単位で考えると結構な金額だった。

それでもその趣味を続けるために、平日は自炊して食費を抑えたり、格安スマホを活用するなど、無理のない範囲でメリハリをつけて節約生活を心がけてきたつもりだ。

我が家の現在の貯金額は約600万円。今後自分たち夫婦や私の両親、春雄の両親に何かあったときのために、もっと計画的にお金を準備しておかないといけないのではないか。

もし私が正社員になれたら、収入が上がるのでその分は預貯金にまわせる。

でも、なんとなく貯金しているだけのいまの生活で大丈夫なのだろうか。

かといって、他にどうすればいいかもわからない。

いまの趣味をこれからも楽しみながら、年を重ねてもわたしたちらしく過ごす、というのが春雄と私の夢で、これまでは順調に準備できているような気になっていた。

でも、春雄がもらえる年金は私がイメージしている金額より少ないのかもしれない。

自分たちの将来のお金について、もっと真剣に考えないといけない時期に突入したのではないだろうか。





甘い匂いが漂ってきた。そろそろ焼き上がる頃だろうと立ち上がると、携帯が鳴った。

画面をみると「ほの香」の女将、香織さんからであった。





「え、本当に?ありがとう!すみれさんの作るお菓子、いつもおいしいから嬉しいわ」

香織さんへのお土産として、焼き立てのカップケーキを持っていったら、とても喜んでくれた。

私たちはいま、開店前の「ほの香」にいる。

彼女からの電話は、「ほの香」特製ランチメニューの試食に来てくれないかとの誘いであった。これまでランチ営業はしていなかったが、来月からはじめるらしい。

一緒に店を切り盛りしている香織さんのご主人がランチを作っている間、不安に思っていることを彼女に話してみた。





「将来のお金が心配なのは、うちも同じ。私の場合は、母が介護施設に入ったの。その費用も大変だし、夫の両親のことも考えないといけないしねぇ。

うちは高校生の娘もいるから学費もかかるし、自分たちがリタイアした後のお金のことを考えると、頭が痛いわ」

そう香織さんも悩みを打ち明けてくれた。

深刻な話題なのに、香織さんは笑顔のままだ。もともと、彼女は快活で面倒見のいい姉御肌であるが、こんなに明るく話しているのが不思議であった。

「香織さんっていつも美味しい日本酒の噂を聞くと、仕事と趣味と関係なく、酒蔵に飛んで行っちゃうじゃない?

例えば、その費用を抑えて、将来のために預貯金にまわすとか考えたことありますか?」

「あるわよ。ただ、いまは "ゼロ金利時代"っていわれてるじゃない?

これから金利が上がるかどうかも分からないし、預金だけじゃなくてなにかしないと、って思ってたの。

それで私ね、iDeCo(イデコ)を始めてみたの」

iDeCoって......名前は聞いたことがある」





iDeCoとは『個人型確定拠出年金』の愛称で、"自分で公的年金に上乗せする"年金のこと。

自分が拠出したお金を、自分が選んだ商品で運用する年金制度らしい。

「公的年金に上乗せできる......ってことは、私の場合は、国民年金と厚生年金に加入してるけど、さらに上乗せできるってこと?」

「その通り!さすが、すみれさん!」

香織さんの説明によると、フリーランスである夫の国民年金にも上乗せできるらしい。

しかも、iDeCoの掛金は毎月5000円から。

投資というと、まとまった元手がないと始められないと思っていたけど、これなら日々少し、無駄遣いを減らせば、休日の旅行やカメラなどの趣味をあきらめなくてもよさそうだ。

そう考えて、年金についての不安が少し和らぐのを実感した。

「60歳を過ぎたら、一時金としても受け取れるし、もちろん年金としても受け取れるそうよ。税金の優遇措置もあるから、思い切ってはじめてみたの」

「へえ。そうなんだ。それなら私もはじめてみようかな......」

「人生100年って言われてる時代よ。リタイア後の資金を準備する方法のひとつとして、考えてみるのもいいかもしれないわね」




―数か月後―



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私は無事、正社員試験に受かった。そのお祝いもかねて、夫と二人、宮古島に来た。真っ青な空と透明感抜群な海の写真を撮ってのんびり過ごすプランだ。

レンズ越しに風景を見ながら、ぼんやりとしていた。

これから先のお金のことを考えると、心配事がなくなったわけではない。

でも、香織さんから教えてもらったiDeCoを始めて、将来のお金の準備にポジティブに取り組めるようになった。それに、リタイアした後のマネープランもイメージできるようになってきた。

そのおかげか今回の旅行は、これまでになく晴れやかな気持ちで満喫できている。




「俺たちもこれからも変わらず、ああやって旅行できたらいいな」

春雄の声で振り返ると、観光客と思われる老夫婦がのんびりとビーチを歩く姿が見えた。

「きっとできるわよ。わたしたちにも!」

明るい声でそう言うと、春雄は笑顔でうなずいた。





いかがでしたでしょうか? すみれが香織からアドバイスを受けて始めたiDeCoの詳細については、投資のキホン②でも紹介しています。ぜひ読んでみてください。

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